2018年11月19日から22日にハルガダのベルリン工科大学分校にて国際シンポジウムを開催いたしました。JSPSカイロ研究センターおよびJSPSエジプト同窓会も協賛します。日本から3名の先生方が講演いたしました。3名の先生方より今回のハルガダの国際シンポジウムについてコメントを頂きました。
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構・信濃 卓郎氏
「シンポジウムのタイトルThe Plant Microbiomeの通り、植物と微生物の接点を特に農業現場での活用も含めて複数の側面から議論をするシンポジウムになったと思います。特定の微生物に植物ー微生物間でもたらされる機能を代表させる考え方もあれば、微生物の種類や群集構造のみでは機能は語れないという考え方もありました。どちらのアプローチも重要だと感じられる発表が多かったです。
自分は後者の立場で研究を進めており、植物と土壌の接点を構成する一つの領域である根圏の機能を成立させるために必要な微生物と植物の役割を知りたいと思っています。そのために複数のオミックス解析を統合して解析をすることを目指しています。今回の発表ではその統合した姿まではお見せできなかったのですが、多種多様な微生物が存在する土壌において一定の機能を発揮させるためには、何も特定の微生物に依存する必要はなく、複数の微生物が必要な機能を個々に発現することが重要と考えています。微生物の母集団が異なる場合でも一定の機能が発現されることは知られており、農業現場で植物と微生物の関係の頑強性が発揮させるためには、そのような微生物群集を動かす要因がどこにあるのかを明らかにする必要があるでしょう。そのような考えを改めて考えさられた会議になりました。
その意味では欠点とまでは言えませんが、培養困難な微生物と機能性をどのように扱うのかとかのセッションがあるとより奥行きのあるシンポジウムになったかと思いました。」
京都大学・杉山 暁史氏
Plant microbiomeはシーケンサー技術の革新的な進歩によって大きく発展し、近年基礎科学としてだけではなく、農業への応用に向けても特に注目されている研究分野です。
基礎生物学研究所(大学共同利用機関法人自然科学研究機構・中川 知己氏
「環境中に存在する多種多様な微生物について、従来は代表的な数種を単離して性質を調べることが限界でした。環境中には容易に培養できない微生物や、複数種が連携して効果を発揮する例が存在することも指摘されていますが、大部分は見落とされている可能性が非常に高いです。現在は「次世代シーケンス」という技術が開発されたおかげで、微生物集団(microbiome)全体の構成や割合などをまとめて解析することが可能となっています。このようなmicrobiomeは動植物の研究分野で流行となっており、例えば大腸のmicrobiomeが人の健康に与える影響や、植物の根の周囲のmicrobiomeが生育に与える影響などが注目されています。
一方でmicrobiomeの研究自体はまだ黎明期であると考えられます。現状はmicrobiomeに含まれる微生物種の変動を観察することが主であり、microbiomeの機能を反映するような証拠を得ることは難しい。このような時期に、大きすぎない会議で密度の濃い議論ができたのは良かったです。いくつかの有力な研究室は参加していないですが、それでもレベルの高い発表がいくつかあって刺激を受けました。また研究の主導権を握ることが多いアメリカやヨーロッパではなく、エジプトが主体となって開催された会議であることも非常に意味があると考えます。近年は安くて簡便かつ高性能な研究手法の開発も進んでおり、先進国の優位性は小さくなっている印象を個人的には持っています。一方で独特の環境や生態系が多く見られる発展途上国は、研究の題材や材料に事欠かない。特にアフリカには農業や生態系・進化の理解に役立つ資源が多いと思われます。そのような状況で、友好的なエジプトの人々と接することができたことは、共同研究などを促進させる効果も大きいと思います。
エジプトでの会議は、近年の中東情勢などを考えると不安の大きいものでした。しかしJSPSカイロ事務所の人々の手厚いサポートのおかげで、余計なことに悩まされずに参加できたことは非常に助かりました。厚くお礼申し上げます。」
シンポジウム詳細はHPをご覧ください。https://www.pgpmicrobiome2018.com