カイロ書店案内 Livres de France

1. Livres de Franceldf_front
(Zamalek) 17 Al-Brazil St., Zamalek, Cairo
tel: 2735-1148
(Maadi) 2 Road 23, Maadi, Cairo
tel: 2378-0315
e-mail: Farazliyvette@gmail.com

月‒土曜 11:00‒20:00


 

 

1.インタビュー
――この書店の歴史を教えて下さい。
Eglal Rached(以下E): この店は私のおばYvette Farazliによって始められました。1947年のことです。おばは本を好み文化を愛する人でした。書店をはじめたときのダウンタウンは、決して今のようでは無く、もっとハイクラスで良い場所でした。そして書店も、知識人が気に入って訪れて、議論をしていくような場所だったのです。ここにはエジプトの知識人コミュニティの人たちが多々訪れましたが、このコミュニティは60-70年代ぐらいまであったと思います。革命、戦争の中で、多くの外国人居住者たち(expatriates)̶私はこの言葉は好きではないですが̶がエジプトを離れました。多くのフランス語を話す人たち、レバノン人、シリア人、イタリア人、ユダヤ人コミュニティなどが去っています。フランス語の重要性も、エジプトでのこういった変化や、国際的な変化の流れの中で、損なわれていきました。

もちろん、書店もその変化に対応していきました。しかし、カスル・アンニール通りは商業的な雰囲気が強くなり、もはや人々が書店に来るのを楽しみにするような場所ではなくなってしまいました。そのため、書店を経営するのにふさわしい場所を少しずつ探さなければいけなくなってきていました。 しかし、カスル・アンニール通りからの移転は、これが理由なのではありません。

2003年におばが亡くなりました。そのとき、私達姪や甥たちはこの書店を続けることを決めたのです。ですが、書店の入っていた建物のオーナーは彼女が亡くなると、直接の相続
人がいないということで立ち退きを要求するようになりました。結局、2006年に48時間以内に立ち退くように言いわたされたのです。

その後、嬉しいことにザマーレクに移転場所を見つけることができました。ザマーレクは知識人も多いですし、英語やフランス語を読む人も多い。良い教育を受けたエジプト人も多い。この書店を経営するにはうってつけだと思いました。この場所を見つける前には、私たちはマアーディーでも書店を開きました。マアーディーも良い場所でした。ザマーレクで書店を開いたのは、結局2008年11月のことになります。
――書店を始めたときから、美術や建築、考古学などを中心に本を置いていたのでしょうか?
E, Zeina Badran(以下Z): いいえ、当初はほとんどが文学でした。ですが、人々が文学作品を買わなくなっていったことから、少しずつ美術や建築などの分野の本を置くようになり、そして古書も取り扱うようになりました。そして、旅行記や考古学の本なども加えられました。

――この書店は、考古学者や歴史学者、フランス研究所などと何か特別なコネクションや関係をもっているのですか?
E, Z: ええ、もちろんです。カイロのフランス考古学研究所や、多くの考古学関連の出版社、レバノンのフランス研究所、アレキサンドリア図書館などと関係があります。また、私たちのところでは、著者が自著に署名したり、書店を訪れた人と話をしたり、議論を戦わせたり、あるいは親しくなったりということもありました。
――あなたはいつこの書店に関わるようになりましたか、60-70年代からでしょうか?
E: いいえ。私が実際にエジプトに来たのは1987年のことです。書店の経営に関わるようになったのは、おばが亡くなってからです。もちろん、それまでもできうる限りいつも手伝っていました。

――私は1980年代の末に留学生活を経験していますので、あなたのおばさんのYvette Farazliやあなたがたを書店で見かけたのを覚えています。初代のオーナーはどういう人だったのでしょうか?
E: 彼女は大変強く、そして大変勇敢な女性でした。彼女は出自はレバノン系の人です。生涯結婚はしませんでした。私の母の姉妹にあたる人です。一方、いま隣にいるZeina Badranは、1975年からこの書店で働いています。彼女はこの書店で最も重要な人物です。書店にある本、編集者たちについてなど、すべての知識を彼女は持っています。
――この書店の最も重要な顧客はだれでしょうか?日本人の顧客などもいましたか?
E, Z: この書店がダウンタウンにあったときには、多くの日本人が訪れました。そのうちの多くが考古学に興味のあった人だと記憶しています。このザマーレクに移った後も、2-3人訪れています。

――この書店の今後の経営のあり方について聞きたいと思います。また、このカイロで書店を経営していく上で、一番難しい点というのは何でしょうか?
E: なかなか複雑な問題ですが…まず第一に、フランス語書籍というのは非常に値段が高いということです。出版部数も英語圏の出版社などより遥かに少ないし、割引率についてのポリシーも違います。そういったことから、英語やアラビア語の本に比べて高くなってしまうのです。次に、書店というのはレストランではないということ。経済的な危機の時期でも人は食べなくてはやっていけないけれど、このような時期に人に本に興味を持たせ、本を読ませ、書店の経営を続けてというのはなかなか難しいことです。
Z: そして、インターネット̶これはまさにカタストロフです。人々はネット上で欲しいものを見つけ、コピーしていってしまう。確かに、インターネットは私達のビジネスを助けてくれることもありますが、一方でインターネットによって人は書店を訪れなくなっています。訪れて実際に本を見れば、当初の目的以外にも何か見つけて購入したりということもあるのに。
E: またそれとは別の難しい点をあげるとすると、エジプトの検閲があげられます。アラビア語の書物は検閲されませんが、外国語の書物は厳しく検閲されます。フランス語で検閲されてしまったものが、アラビア語に翻訳されていると、通りでごく普通に売られていたりするのです。フランス語での読者が1000人とすると、アラビア語での読者は1000万人ぐらいになることを考えると、このような検閲のロジックは理解に苦しみます.この検閲の問題のため、私達は外国語の書籍を選定しオーダーする際には非常に気を使います。そうしないと、海外の出版社にオーダーを出して、お金を支払っても、6ヶ月後に出版社側に返送されてしまうかもしれないのですから。そういった制度が変化することを、私達は望んでいます。また、私たちは訪れる人に多くの選択肢を提供できるような書店―ベストセラーを五種類置くだけ、といった風ではない―、そのような書店であろうとしています。ですから、多くのストックを私たちは抱えています。しかしながら、それが私たちへの評価につながっているのです。インターネットを通じて海外にも書籍を販売したりできるかもしれません。しかし、エジプトではそれはなかなか難しいことですから、リスクをおかしてまでやろうとは思いません。なにより、今の評判をおとすようなことはしたくはありませんから。

――革命のあとも、そういった状況には変わりありませんか?
E: 検閲に関して変わってくれることを望んでいたのですが、革命後も以前となんら変わりがありません。変化には時間がかかるのでしょう。
――ダウンタウンのときには2階に大部な古書・絶版本のコレクションがありましたが、このザマーレクのお店で古書部門を再オープンする予定などはあるのでしょうか?
E: オープンする予定はあります。ただし、まだ準備する時間が十分に取れていません。しかし、もし見たいという方がいらっしゃるのなら、オフィスに来ていただいて見ていただくことも可能です。
――どうもありがとうございました。
E:Eglal Rached(オーナー)
Z:Zeina Badran
インタビュアー:長谷川奏
書き起こし・編集:坂東和美
インタビュー日:2011/6/23

 

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