①エジプトとアフリカ諸国の国際協力、および②先進諸国の動向について 高等教育と研究を中心に

①エジプトとアフリカ諸国の国際協力、および②先進諸国の動向について

高等教育と研究を中心に

 

①エジプトとアフリカ諸国は、学術関係が多様な分野において築かれ、その枠組みを含め相互に影響し合っている。特に2013年、AUの前進であるOAU(統一機構)の時代から創設50周年を迎えた際、政治、経済、社会に関する長期ビジョンとしてのアジェンダ2063が採択されて以降、エジプトとアフリカ諸国の間の学術関係は強化された。たとえばエジプトの現行の憲法は、GDPの1パーセントを研究費に充てることを規定しているが、それはアジェンダ2063の一部として掲げられたScience, Technology and Innovation Strategy for Africa (STISA-2024)に則ったものであろう。AUの公式会議に継続してエジプト高等教育省は参加し続け、30回以上の閣僚級会議や65回以上の科学・戦略会議に出席し、アフリカ大陸全体での科学技術戦略の策定に関与してきた。

アフリカにおける経済大国は、南アフリカ、エジプト、アルジェリア、ナイジェリア、エチオピア、モロッコ、ケニア、アンゴラなどであるが、たとえば、エジプトと南アフリカの科学分野における協力は、2015年4月に開催された科学研究共同委員会によって具現化され、両国は、共同研究を越え、共同特許や応用プロジェクトのレベルへと協力の枠を広げることに合意した。またエジプトのSTDFとNRF(南アフリカ国立研究財団)との間で、科学技術協力と開発に関する覚書が交わされ、両国間の共同研究プロジェクトに対する資金調達の機会を増やすことが決定した。2018年、両国の科学研究共同委員会は、研究プロジェクトの見直しを行い、主に、宇宙、バイオテクノロジー、情報通信技術、再生可能エネルギー、社会科学などの分野で両国の研究者の協同可能性が議論された[1]

その他の国も含めたアフリカ諸国に対する高等教育および科学研究分野における現政権下のエジプトの主導的な動きとして、①アフリカ諸国におけるエジプトの大学の分校設立②アフリカ諸国の学生に対する奨学金の提供③アフリカ宇宙機構設立に向けた資金提供④エジプトの大学によるアフリカ諸国での医療支援⑤科学カンファレンスの開催と、学生に対する研修などが挙げられる[2]

2014年から2022年までの間にアフリカ諸国向けに提供されたエジプトの奨学金の総数は2702件で、これらの奨学金は文化交流プログラム、外務省の下部委員会による奨学金、エジプト国際開発協力庁(EAPD)[3]による奨学金など、多岐にわたる。学部生、修士課程、博士課程の奨学金があり、2023年には、医療、薬学、理学療法、獣医学、工学などさまざまな分野で713件以上の奨学金が提供された[4]。アフリカのほぼすべての国に奨学金が提供されており、最近では22カ国以上の学生が恩恵を受けている[5]

スエズ運河大学やアスワン大学などエジプトの大学にはアフリカ研究のための4つの研究所および学部があり、エジプトとアフリカ諸国との研究交流が進められている[6]。また、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)は、TICAD7、8のイニシアティブに基づき、E-JUSTとJICAによる共同奨学金事業を実施している。TICAD7(2019-2025)において128名(修士126名、博士2名)に奨学金を提供(内78名は修了済)、TICAD8(2023-2028)を通じて新たに150名(博士100名、修士50名)に提供見込み(7名が入学済)である。カイロ・アメリカ大学とエジプト・ブリティッシュ大学もそれぞれ50件の奨学金をアフリカの学生に提供している。さらに、エジプトはアズハル大学で主催するアフリカ北部諸国の大学連合地域事務所の支援を強化した。エジプトの大学とアフリカの大学との協力を促進し、アフリカ大学連合とアラブ大学連合の連携に向けた取り組みが進められている。

エジプトの大学とアフリカの大学との間での提携プログラムや学生・教職員の交換が進められている。最近では、カイロ大学と南スーダンのジョン・ガラン大学、ヘルワン大学と南アフリカのリンポポ大学との間で協定が締結された。さらに、エジプトの大学はアフリカ諸国に分校を設立し、カイロ大学のスーダン・ハルツーム分校の再整備や、アレクサンドリア大学の南スーダン・トンジ分校の整備が進行中である。また、エジプトの大学がアフリカの他の諸国にも分校を設立するための取り組みが進められている。現在、タンザニアにアイン・シャムス大学の分校を設立するための協議が進行中で、エジプト高等教育・科学研究省とタンザニア教育・科学技術省との間で締結された覚書に基づいて実施されている。

エジプトの研究機関は、アフリカの研究者と協力して、特に医療・健康、エネルギー、農業、水分野における共同研究プロジェクトを実施しているが、特に主導的な役割を果たそうとしているのが、宇宙やリモートセンシングの分野である。ハーリド・アブドゥルガッファール高等教育・科学研究大臣は、2019年に日本で開催されたTICAD 7会議において、アフリカ諸国と共同で「アフリカの発展のための人工衛星設計および打ち上げ計画」を発表し、現在、エジプト宇宙庁の指導のもとでこの計画が進められている。また、エジプトはアフリカ宇宙機構の本部を設立するために1500万ドルを提供し、そしてそれは現在、エジプト宇宙庁の敷地内にある。人工衛星の開発にあたっては、ケニアとの電源システムの開発、ウガンダとのコンピューター開発、ナイジェリアとの制御システムの開発といった、アフリカ諸国との協力関係を構築している[7]。この分野での進展により、たとえばアフリカの研究者が衛星データを、地域の環境問題を解決するために活用することができるようになる。

以上のようなエジプトの動向を象徴するものとして、高等教育省アフリカ担当顧問イスラム・ハムザ博士はメディアのインタビューで、最近エジプトの政治指導部はアフリカ大陸に大きな関心を寄せており[8]、アフリカの高等教育と科学研究への支援を通じて、同地域において重要な役割を果たし、将来的には、エジプトがアフリカにおける教育市場、産業市場、特に医薬品や宇宙技術、情報技術の市場でリーダーシップを発揮することを目指しているとはっきり述べた[9]

 

②しかし、現状、アフリカにおける共同研究や高等教育支援で大きなプレゼンスを発揮しているのが、先進諸国や国際組織である。

アフリカの研究者が国際ジャーナルに発表した論文の40パーセントは、先進国の研究機関との共同研究(South-North Collaboration)の結果である。アフリカにとっての代表的な研究相手国は、アメリカ、フランス、イギリス、カナダ、ドイツ、デンマークである。EUは、1990年代半ばから2010年代にかけて、南アフリカ、チュニジア、モロッコ、エジプト、アルジェリアと科学技術協定を締結している[10]

アインシャム大学は、The Mandela Rhode Foundationで学生を受けいれている[11]。2015年エジプト・ブリティッシュ大学(BUE)は、南アフリカの主要大学やアフリカ研究センターとの協力方法について協議したいと表明した。同大学の副学長およびアフリカ研究センターの所長であるモナ・オマー大使が率いる代表団が南アフリカを訪問し、プレトリアとヨハネスブルグにある多くの大学やアフリカ研究センターと会談した。水、農業、エネルギーの研究におけるネットワーキングの取り組みに、EUの「Horizon 2020」プログラム[12]も大きな役割を果たしている[13]

宇宙やリモートセンシングの分野において中国の影響力は絶大であり、中国はエジプトにリモートセンシングセンターを設立し、アフリカ諸国にサービスを提供するための交渉が進行中である[14]

またエジプトは、国連の支援を受け、アフリカ諸国と協力して国際宇宙ステーションに設置するリモートセンシング・カメラの開発に取り組んでいる[15]

先進諸国が絡む共同研究の問題点は、財政や研究環境の差異に起因する、先進国と発展途上国の研究者間の力関係の不均衡である。研究資金を握り、それゆえ共同プロジェクトの方向性の決定権を独占する先進国の研究者は、実質的に発展途上国の研究者を、たとえば現地のマテリアルの採取などのための都合のよい協力者としてしか考えていない場合がある。また、先進国の研究者は地球規模の課題の解決を目的とするが、発展途上国の研究者はローカルな課題の解決を特に重視するため、研究上の問題関心にずれが生ずる場合もある[16]

[1] Egypt & Africa – Egyptian – South African Relations

[2] 以下、当時のハーリド・アブドゥルガッファール高等教育・科学研究大臣によって2022年に発表された報告書を主に参照。加えて、新聞・雑誌やその他のメディアの情報、および関係者への聞き取りに基づく。

[3] アフリカの開発目標を支援するために2014年に設置された。

[4] 人口知能分野の奨学金もある。التعليم العالي: منح مصرية للطلاب الأفارقة في مجالي الزراعة والذكاء الاصطناعي

[5] مستشار وزير التعليم العالي: تعاونا مع دول أفريقيا في مجالات عديدة منها الذكاء الصناعي والزراعة

[6] アスワン大学のケースについては、الأهداف الإستراتيجيه – معهد الدراسات الافريقيةを参照。

[7] 240206_日・エジプト宇宙協力(エジプト宇宙庁訪問)(本使電)

[8] اهم ٤ مشاريع مصرية للربط بينها وبين افريقيا وتسهيل حركة الملاحة بينهم。たとえば、エジプトとアフリカ、ヨーロッパをつなぐ電力連結プロジェクト、アレクサンドリアとヴィクトリア湖を結ぶ水上輸送プロジェクト、カイロとケープタウンを結ぶ陸上交通プロジェクト、アレキサントリアとスーダンのハルツームを結ぶ鉄道連結プロジェクトがある。

[9] مستشار وزير التعليم العالي: تعاونا مع دول أفريقيا في مجالات عديدة منها الذكاء الصناعي والزراعة

[10] Vieira, Elizabeth Sousa. 2022. “International Research Collaboration in Africa: A Bibliometric and Thematic Analysis.” Scientometrics (March).

[11] ASU | منح مؤسسة مانديلا رودس للطلاب الأفارقة

[12] その後継プログラムは、Horizon Europe。

[13] Egypt & Africa – Egyptian – South African Relations

[14] مستشار وزير التعليم العالي: تعاونا مع دول أفريقيا في مجالات عديدة منها الذكاء الصناعي والزراعة

[15] 240206_日・エジプト宇宙協力(エジプト宇宙庁訪問)(本使電)

[16] Vieira, Elizabeth Sousa. 2022. “International Research Collaboration in Africa: A Bibliometric and Thematic Analysis.” Scientometrics (March).

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