2. Maktabat Sadiq
329 Port Said St., near Ahmad Maher Hospital,
al-Sayyida Zeinab, Cairo
tel: 2393-4714
mobile: 0122-3162502
※来店の際には要電話確認
1.インタビュー
――まずはじめに、この書店の歴史とあなたについて教えてください。
Mustafa Sadeq(以下M): 私の名前はMustafa Muhammad Sadeqです。この場所は祖父の遺産を父を通じて受け継いだものです。父Muhammadはここで本の商いをしていましたし、祖父Sheykh Ahmadも本を商っていました。およそ20世紀初頭のころからです。ですから、100から120年ほど本の商いをしていることになります。
この場所の歴史ということでいえば、この書店の入っている建物の名はTakiyyat Sultan Mahmud Khanと言います。このSultan Mahmud Khanはオスマン朝末期のスルタンの一人です。このタキーヤはTakiyyat al-darawish(ダルヴィーシュの修行場)とも呼ばれており、タサウウフの修行の場として、ハナフィー派のマドラサとして機能していました。この建物には、おおよそ100年ほどの歴史があります。
私の父、祖父の頃にはここで出版業もおこなっていました。祖父はSheykh Ahmad Sadeq al-Kutubiと呼ばれていましたが、al-Kutubiとは本を扱う者の意味です。私自身は商業高校で学び、中級ディプロマまですすみましたが、その後は40年間この仕事についています。
――どのような分野の本を中心に取り扱っていますか?
M:あらゆる分野、そしてアラビア語だけでなく諸外国語の本を扱っています。外国人の顧客は文学や歴史などをよく探しに来ます。工学や化学などの理系のものは比較的少ないです。ここにあるものは文学や歴史、宗教や、旅行記、地理関係のものが多いのですが、店を訪れる人たちの要望の中心となるのがその分野なので、そういったものが集まっています。
――ここのほかに倉庫などありますか?
M:父の代にはたくさんの倉庫がありました。しかしながら、2004年に父が亡くなり、その遺産相続の都合上、それらの倉庫の本を売り払うなどして手放してしまいました。
私達が中心に行っている仕事の一つに、知識人層の人物が亡くなり、その蔵書を整理する必要がでてきた時にその蔵書コレクションを買い取る、というのがあります。この仕事を通じて、父には知り合いが多く、様々な伝手があったため、私達は長らくそれを専門的におこなっており、写本や回想録、雑記、日記、コレクション所有者本人の著作物等も手元に集まってきました。たとえば、校訂者として有名なAbd al-Salam Harun、Ibyari、歴史家のSuleim Hasanの蔵書を扱ったことがあります。 そういった蔵書コレクションは、アラブ諸国の諸機関に購入されて行きました。たとえばサウディアラビアのジェッダのal-Malik Abd al-Aziz大学などにです。
ただ、近頃では蔵書コレクションを丸ごと購入できるような機関が、国内・国外に関わらず少なくなってきています。購入するにしても、一部の個人が、コレクションの一部を、という場合が多いです。
――こちらでは、本の出版などは手掛けていますか?
M:出版業はおこなっていません。古書の売買のみです。
――ここはアズハルやイスラーム芸術博物館などにほど近いですが、そういったことからこの場所を選んだのですか?
M:選んだわけではありません。最初にお話ししたように遺産として受け継いだものです。
イスラーム芸術博物館の周辺は、以前はDarb al-Gamamizと呼ばれていました。かつてカイロの書店街として知られていた場所は2つありますが、ひとつはアズハル、もうひとつがこのPort Said通り(以前のal-Khalig al-Masri通り)からサイイダ・ゼイナブ近くまでの地域です。かつてその辺りにはBirka al-Filと呼ばれる地区がありましたが、そこはナポレオンのフランス遠征に同行したフランス人研究者の一団が滞在した場所でした。彼らはそこでエジプト誌を作成するために写本や書籍を集めました。そうしたことから、この通りは「書店街」となっていったのです。
――周辺地域の書店主とのつきあいなどはありますか?
M:もちろんです。お互いにお互いのもつ本の交換や売買をおこなっています。ただ私の場合古書を専門に扱っていますので、古書店との付き合いが主です。
スール・アズベキーヤも古書店街ではありますが、有力な書店主は大部分がもう亡くなってしまいました。ですから、今は若い人が多く、すぐに利益を得ることを考えて商いをしています。ですから、扱う古書も比較的新しいものや雑誌や教科書など回転の速いものが多くなっていますし、集めたものは早くに売り切ってしまいます。一方で、私の商いの方法ではすぐに売れないこともあります。ですが、私はこの仕事と仕事のやりかたが好きです。歴史的価値のある古書などはすぐには売れないかもしれないですが、たとえば今日来たように日本の機関が来たり、オランダやサウディアラビア、フランス、ドイツなど各国の機関の人が来て―おかげさまで、私は世界中様々な機関やそれに関わる人と、この仕事の中で知り合っていますから―、私のもとに本を、あるいは蔵書コレクションを求めにきます。そういったときには、すぐに売り切ってしまうよりも、大きな利益を得ることができます。
――どういった人たちが顧客としていますか?
M:多くの人たちが文化人・知識人層です。
――この店にはエジプトの外からも本を探しに訪れる人がいますが、では逆にあなたが国外に本を求めに行ったりすることもあるのですか?
M:私はそういったことはしません。
出版社との書籍の交換を行うこともありますが、それは基本的に新刊書の交換になりますし、また海外の書店などはとくに同じ本を何部も欲しがるのです。私は基本的にそういった風に同じ本を何部も仕入れるようなことはしません。一巻だけ仕入れるというのも多いですし、複数巻にまたがるような書籍ですと抜けている巻を探して全巻揃うようなかたちにしたりもします。 私が扱うのは、歴史的な写本や書籍が中心ですので、それでよいのです。
――日本人でここを訪れた人などはいましたか。
M:日本人が来るようになった最初は、福原氏という研究者です。父の親しい友人でしたが、大変な本好きでした。ずいぶん以前に訪れて以降来ていません。それ以降さまざまな人が訪れました。若手の研究者も少数ですが訪れています。
――マアーディーやダウンタウンなどで、広い面積を持ち、大量の書籍を抱え、近代的な設備を整えた大型書店がいくつか見られますが、あなたの書店をそういった地域に置いて、大型化・近代化しようとおもったことはありますか?
M:いいえ。私はクラシックな人間です。ここ以外の場所は考えられません。
ここは小さいですし、雑然としていて本の整理もついていないように見えるかもしれません。しかし、私にはどの本がどこにあるかはわかっています。まず第一に、私たち書店主の仕事は記憶することで、どのような本をいつ仕入れて、いつ売ったかなどきちんと記憶しています。 また、新しい本は何千部と大量に出回っていますが、私がさがすのはたった一冊しかない本だったり、滅多にないものです。
私は「研究者の友」として、人に知られています。あらゆる分野の研究者が―文学や歴史が中心ですが―修士・博士論文を書くための、あるいは書物の執筆を行うための本を探す手伝いをしてきました。そして、そのことで諸国の人に知られています。
たとえば、アメリカ人の研究者Marylin Booth。私は彼女の執筆のためにいろいろな資料を探しだしてきました。彼女はそれに感謝して、出版した書物の巻頭に私宛の謝辞を付けて贈ってくれました。そして、ほかのアメリカ人の研究者にも私の存在を知らせてくれたことから、その後アメリカ人の研究者が探している本のリストを携えたりしながら訪れるようになりました。そういった評価を考えたら、エアコン設備のあるなしなど二の次です。
もうずいぶん前になりますが、ある人がウンム・クルスームについてのドキュメンタリーを撮りましたが、そのときここも撮影していきました。監督は私にそのビデオを送ってくれなかったのですが、その後のカイロ国際ブックフェアで人と会うたびに、「ウンム・クルスームのドキュメンタリーで、あなたを見たよ」と言われました。さまざまな映画祭で上映されたようで、アメリカだけでなくヨーロッパのさまざまな国の人たちからもそのように声をかけられました。そのため私はそのビデオが欲しいと思っていたのですが、のちにBooth博士が探してくれて私にプレゼントしてくれました。これがそのビデオ(Umm Kulthum: A Voice Like Egypt)です。私は英語ではなくアラビア語でもちろん話していますが、オマー・シャリフがナレーションをしています。
――たとえば、インターネットを利用して本を売ったりということは考えていますか?
M:私は古いタイプの人間です。パソコンの使い方などにも明るくないし、好きでもないです。 またパソコンを使って購入した書物の情報をネット上にあげる手間や、売買の手続き上でかかってくる税金のことなどを考えたら、面倒のほうが大きい。ですので、そういうことは考えていません。
――この仕事を行う点で最も困難な点を教えてください。
M:遠くに出掛けて行って、蔵書を見つけ、購入し、たくさんの本を箱に詰め、保管し、それらの本を仕分けする。これは大変面倒なことです。しかし、一方で本を見て仕分けしていく中で、様々なもの―たとえば、この20年誰も目にしてなかった本や、自分の生涯で初めて目にする本など―を見つけることができるのは非常に楽しいことです。ただし、蔵書を買い取るときの交渉についてなどは、非常に面倒です。最近の若い人たちはネットなどで知識を得て、写本は高いなどといって高く値段を言ってきたりして、なかなか値段交渉が難しくなっています。
――どうもありがとうございました。
M:Mustafa Muhammad Sadeq(オーナー)
インタビュアー:坂東和美、Sabreen Ali
書き起こし・編集:坂東和美
インタビュー日:2011/7/7