過去の定例懇話会

2011年度 定例懇話会

第1回 2011年5月12日(木)18:30~20:00
竹村和朗 (東京大学大学院博士課程)

「船頭二人で船沈む?! エジプト・アーンミーヤの諺」
<要旨>日本の諺の「船頭多くして舟山に登る」がエジプトにもある、と耳にしたことはないだろうか。エジプトの諺を教えてもらったが、よく意味がのみこめなかったという経験はないだろうか。我々日本語話者にとって、アーンミーヤ(口語アラビア語)の諺は、時にわかりやすく、時にわかりづらい。本発表では、これらを「通文化の諺」「異文化の諺」と分類し、異なる社会の諺を身近にする考え方を提示する。また特徴的な諺を適宜紹介する。

 

第2回 2011年6月23日(木) 18:30~20:00
長谷川奏(日本学術振興会カイロ研究連絡センター長)

「新しいデルタ考古学の始まり―水辺環境をめぐるヘレニズム文明の知を求めて―」
<要旨>ファラオ文明からヘレニズム文明への移行期を主題とする。外来政権として登場したヘレニズム勢力は、分厚い前身伝統とどう対峙したのであろうか。その問いを解く鍵としてのフィールドを、アレクサンドリアの周域に求める。当該地域は、近代以降の開発によって、大きく環境が変わってしまったが、ヘレニズム時代には、海洋~湖~運河~ナイル支流に支えられた豊かな水運ネットワークが作り出されていた。本発表では、考古学と先端科学融合させながら、西方デルタの歴史環境を考える取り組みを紹介する。

 

第3回 2011年9月29日(木) 18:30~20:00
後藤絵美(日本学術振興会特別研究員PD)

「自発的なヴェール着用をどう読むか-芸能人女性の「語り」からの一考察-」
<要旨>1970年代以来、世界各地でヴェールを着用するムスリム女性の数が増加してきた。政治的権力や家父長的慣習によるヴェール着用の強制が非難を浴びる一方で、人々の関心を引いたのは、高学歴な女性や社会進出を果たした女性による「自発的なヴェール着用」であった。彼女たちは今、なぜヴェール着用を選択するのか。本報告では、エジプトで「悔悛した芸能人女性たち」と呼ばれる人々の言葉を一つのきっかけとして、上記の問いについて考えていく。

 

第4回 2011年11月17日(木) 18:30~20:00
木村伸子(早稲田大学文学研究科後期博士課程)

「ヴァイオリンで聴くアラブの音」
<要旨>カイロの街中で耳にするアラブ音楽。日本人である私たちにとっては聴きなれない、不協和音にも聴こえるその音は、実は私たちが慣れ親しんできた西洋音楽以上に古い歴史を持ち、かつ科学的にも非常に美しい理論を持った音だということが明らかになってきた。私たちにとって比較的馴染み深い楽器であるヴァイオリンの構造にも、アラブの音の起源の痕跡が残されている。ヴァイオリンによるアラブ音楽演奏の実演を交えながら、その音の起源の一端に触れる。

 

第5回 2012年1月19日(木) 18:30~20:00
松田俊道(中央大学文学部教授)

「新カイロ物語―ノスタルジアとカイロ旅物語:『スルターンのトゥグラの書』から―」
<要旨>革命直後に、小説『スルターンのトゥグラの書』が出版された。これは一つのイスラーム文明論であり、イスラーム時代以後のエジプト史のある理解でもある。イブン・イヤースやジャバルティーの著作が現代の問題に結びつけられている。また、作者が3つに分かれた地図に従ってカイロを旅する9つの旅行記を年代記風に記したものでもある。最後にそれぞれの地図を重ね合わせると、このカイロの地図はオスマン朝スルターンのトゥグラ(花押)の形にぴったりと符合する。本書をもとにイスラーム文明を考えてみたい。

 

第6回 2012年3月14日(水) 18:30~20:00
イサム・ハムザ(カイロ大学文学部教授)

「「アラブの春」を起点とするエジプトと日本の国際交流の未来」
<要旨>このたびの「アラブの春」といわれるアラブ世界においてさまざまな変化を求める国民が巻き起こしている状況の中、日本とエジプトの交流関係はどのように進むのか。エジプトの国民は2011年1月25日の革命を政治的体制ばかりでなく、文化や教育の分野でも、古い殻を打ち破って、新しい形を創っていく新たなきっかけにするはずである。そこで、国際交流の未来には、双方の国の人々に何が求められるのかをこの発表を通して考えてみたい。

 

2012年度 定例懇話会

第1回 2012年5月31日(木) 18:30~20:00
鷲見朗子(京都ノートルダム女子大学教授)

「『百一夜物語』―シャハラザードを超えて―」
<要旨>『百一夜物語』とは、『千一夜物語』(別名『アラビアンナイト』)の流れをくむアラビア語の説話集で、マグリブとアンダルスで流布し編まれたとされている。『千一夜物語』では千一夜かけて物語が語られ、『百一夜物語』では百一夜かけて語られる。この二つの物語集に共通するのは、数話の物語と、枠物語(導入的な枠となる物語)、そして語り手シャハラザードである。本発表では『百一夜物語』の枠物語に焦点をあてて、その語りが『千一夜物語』の枠物語とどのように異なるかを明らかにしてみたい。

 

第2回 2012年6月21日(木) 18:30~20:00
平寛多朗(東京外国語大学大学院博士課程)

「エジプトにおける国語と文学教育―「エジプト人」の作られ方―」
<要旨>なぜ国語の時間の中で、文学作品を読まなくてはいけないのか?一般的に、文学教育は道徳教育として機能してきた。さて、この道徳とは何であろうか?戦中の日本では皇国史観が国語における道徳であった。エジプトでは、1990年代以降の初等教育の国語では、文学教育を通して民主主義が学ばれる一方、集会の自由、自由な選挙の権利という概念が教科書の中から取り除かれていたと指摘されている。道徳は「国家」が望む「国民」を作る側面を持っていると言える。本発表では、高校普通教育の文学教育に焦点を当て、いかにエジプト人意識が形成されるのか迫ってみたい。

 

第3回 2012年10月18日(木) 18:30~20:00
伏屋智美(遺跡保存コンサルタント)

「考古遺跡から社会へ―文化遺産の保存への新たな取り組み―」
<要旨>紀元前3000年頃に成立した古代エジプトの遺跡は、古代ギリシアの歴史家をはじめ、18・19世紀の蒐集家、現代の観光客や研究者を魅了し続けている。人類の歴史や観光資源として重要な遺跡ではあるが、その「保存」が重要視されるようになったのは最近のことである。現在、保存修復や遺跡管理の活動が多くの遺跡で実施されている。一方で、遺跡自体を重要視するあまり、遺跡を擁するエジプトの現代社会から切り離されて遺跡保存が実施されることがしばしば起きている。そこで、その影響と遺跡と「文化遺産」を、社会やひととの関係から考えてみたい。

 

第4回 2012年11月15日(木) 18:30~20:00
野田有紀子(アインシャムス大学外国語学部日本語学科客員講師)

「エジプト人学生からみた日本―比較研究の視点から―」
<要旨>エジプト国立アインシャムス大学外国語学部(Al-Alsun)日本語学科では、4年次に日本語もしくは日本文化に関する卒業論文を日本語で執筆することが必修となっている。彼らエジプトで日本語を学ぶ学生は、日本のどのようなテーマや問題に関心を抱き、どのような結論を導いたのか。今回の発表では本学科における卒論への取り組みや、去年度の卒論テーマと傾向を紹介。さらに私の専門分野である日本古代史(日唐比較研究)を背景としながら、日本とエジプトとの比較研究のあり方を探りたい。

 

第5回 2013年1月17日(木) 18:30~20:00
黒河内宏昌(NPO法人太陽の船復原研究所教授・クフ王第2の船発掘現場主任)

「世界の船の遺物とクフ王の船」
<要旨>ギザ・クフ王ピラミッドに副葬された2隻のクフ王の船は、世界最古の船の遺物として注目されている。うち1隻はすでに復原を終え、ギザの船博物館に展示されているが、もう1隻は現在発掘に向けて準備中である。2隻目の船は保存状態があまり芳しくはないが、復原を終えたのちにはどのように展示するのが望ましいのであろうか。世界のさまざまな船の博物館を訪ねながら、クフ王の船の魅力と、その展示方法について迫ってみたい。

 

第6回 2013年2月28日(木) 18:30~20:00
熊倉和歌子(日本学術振興会特別研究員PD)
「中世エジプトのナイル灌漑―灌漑土手はどこへいったのか?―」
<要旨>降雨量がほとんどなく、天水農業ができないエジプトでは、古代から灌漑をナイルの水に全面的に依拠し、土手を利用した独特の灌漑方法が維持されてきた。しかし、近代に通年灌漑がはじまって以降、長きにわたって続いた灌漑方法は打ちすてられ、その記憶は薄らいでいる。古代から近代まで続いた灌漑方法とはどのようなものだったのか、それにおいて利用された土手はいったいどこに設置されていたのか? 中世イスラーム期に残された文書記録から忘れられた灌漑方法の復元を試みる。

 

ジュニア研究発表会2013年3月14日(木) 18:30~20:00
長谷川怜(学習院大学大学院博士後期課程)
「近代史研究における古写真・絵葉書の活用-学習院大学史料館の取り組みを中心に-」
<要旨>歴史研究において第一に参照されるべきは、書簡や文書、日記など一次史料であり、また新聞や雑誌など、メディアも史料として重要な位置を占める。だが、文字として記録されることのなかった人々の生活や文化、街並み・都市空間などを知るためには、写真や絵葉書など画像資料が有効な手がかりとなる。本報告では、①近代史研究における画像資料を用いた研究の概要を紹介する。その上で、②画像資料の利用が歴史研究にいかなる成果をもたらすのかを様々な画像を用いながら提示し、③今後の研究の可能性について展望を示す。報告は、大正時代100年を記念して2012年に学習院大学史料館が行った展示・出版活動を中心とする。また、それらの成果を延長させて、エジプトの古写真・絵葉書についても分析を加えてみたい。

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